赤外線サーモグラフィによる劣化診断のこと


今回は、赤外線を使った劣化診断のお話です。

■赤外線劣化診断とは
赤外線劣化診断は、建物の外壁タイルやモルタル仕上げ等の浮き部と、健全な部分の熱伝導の相違によって生じる表面の温度差を赤外線サーモグラフィ装置によって測定し、得られた表面温度分布から浮き部を検出する非接触・非破壊試験法です。足場を必要とせず、効率的に対象範囲全面を診断できます。

インスペクションにおける赤外線劣化診断では主に下記検査で活用されています。
・ 住宅・構造物診断 漏水診断、遮熱・断熱性診断、外壁剥離診断
・ 設備診断 配管熱漏れ診断、レベル(充填度)診断チェック、電気設備診断


■赤外線サーモグラフィとは何ですか?
赤外線サーモグラフィは、対象物から出ている赤外線放射エネルギーを検出し、見かけの温度に変換して、温度分布を画像表示する装置あるいはその方法のことをいいます。
正しくは「装置」と「方法」を分けて、「装置」を赤外線サーモグラフ (Infrared Thermograph)、「方法」を赤外線サーモグラフィ(Infrared Thermograph) と呼びますが、最近の文献(日本、海外とも)では分けて表記することはほとんどありません。

(1)赤外線サーモグラフィの特徴
①面の温度分布として捉え、可視化情報として表示できる。
②対象物から離れたところから、非接触で温度測定ができる。
③リアルタイムで温度計測ができる。

(2)赤外線サーモグラフィのメリット
①広い範囲の表面温度の分布を相対的に比較できる。
②動いているものや、危険で近づけないものでも、簡単に温度計測できる。
③微小物体でも温度を乱すことなく温度計測できる。
④食品、薬品、化学製品などでも衛生的に温度計測できる。
⑤温度変化の激しい物や、短時間の現象でも温度計測ができる。


■なぜ建物の不良箇所が分かるの?
建物の外壁仕上げ面が、太陽光や気温の変動等の気象変化を受けると、その面の構造部材の断面形状と材料の比熱および熱伝導率等の熱特性の違いにより表面温度に差が生じます。

具体的に、モルタルや漆喰、土壁などの湿式外壁の調査を想定してみると・・・

外壁の表面は外部からの熱(主に太陽光)によって暖められます。このとき、不良部(浮きや空洞等)などに存在する空気層が断熱層となり熱伝導を妨げるため、外部から熱の授受があると、健全部より剥離部のほうが表面温度の変動が大きくなり、高温になります。
この原理を活かして、赤外線サーモグラフィで外壁面の表面温度分布を映像として捉え、測定・解析することにより不良部の有無及び不良個所が診断できます。

弊社では、雨漏りの調査にも赤外線サーモグラフィを活用することがあります。しかし赤外線サーモグラフィは、雨漏りしているかどうかの判断はできますが、必ずしも雨漏りの原因箇所を特定できるわけではありません。前述のとおり、熱を測定する測定器なので、雨がしみて冷たくなってしまっている木材や壁紙すべてに反応してしまうため、「ここから水が漏れている」と断定できない場合もあります。

赤外線サーモグラフィを使った調査は建物を壊さず、非破壊で簡単に調査ができるため、調査に多大な費用をかけることもなく短時間で的確に調査が可能です。
弊社でもインスペクションに積極的に取り入れ、うまく活用していきたいと思っています。

2020年10月15日